Japanese Reading (54) - How to read the IROHA poem

<< 「いろは(うた)」の原文(げんぶん) >> [ひらがな表記(ひょうき)]:『いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ うのおくやま けふこえて あさきゆめみし ひもせす』
漢字(かんじ)かな表記(ひょうき)]:『(いろ)はにほへど ()りぬるを ()世誰(よだれ)(つね)ならむ 有為(うゐ)奥山(おくやま) 今日越(けふこ)えて (あさ)夢見(ゆめみ)じ ()ひもせず』

現代語(げんだいご)意訳(いやく)]:(はな)(いろ)(あざ)やか()えるけれども、(いずれは)()ってしまうものなのだ。(わたし)()きているこの()(だれ)一定不変(いっていふへん)であろうか、
いや(だれ)一定不変(いっていふへん)ではない。今日一日(きょういちにち)精一杯(せいいっぱいい)きよう。はかない(ゆめ)など()るまい、()っているわけでもないのに。

<< 「いろは(うた)」の秘密(ひみつ) >>いの一番(いちばん)」という言葉(ことば)もあるように、「いろは(うた)」はかつて五十音図(ごじゅうおんず)よりもさかんに(もち)いられていた。
五十音図(ごじゅうおんず)(ほう)なじんだ(わたし)たちの世代(せだい)でも、「いろは(うた)」を最後(さいご)まで(とな)えることは造作(ぞうさ)ない
しかし、昨今(さっこん)高校生(こうこうせい)では、トップクラスの生徒(せいと)でも、最後(さいご)まで(とな)えることのできる(もの)(すく)ないようである。
「いろは(うた)」は、平安時代末期(へいあんじだいまっき)流行(りゅうこう)した、七五(しちご)四回繰(よんかいく)(かえ)す「今様(いまよう)」という歌謡形式(かようけいしき)(したが)って(つく)られている。
ただ、47文字(もじ)であるから「わかよたれそ」の部分(ぶぶん)字足(じた)らずになっている。
今様(いまよう)集大成(しゅうたいせい)した『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』という書物(しょもつ)は、「(ほとけ)(つね)にいませども うつつならぬぞあはれなる (ひと)(おと)せぬ(あかつき)に ほのか(ゆめ)()えたまふ」という具合(ぐあい)仏教色(ぶっきょういろ)(つよ)いが、「いろは(うた)」も同様(どうよう)であり、当時流行(とうじりゅうこう)した無常感(むじょうかん)(いろど)られている。
今様(いまよう)形式(けいしき)(まも)り、しっかりした内容(ないよう)のある(うた)をかな一字(いちじ)一回(いっかい)ずつ使(つか)うという制約(せいやく)のもとで(つく)った作者(さくしゃ)非凡(ひぼん)(ひと)であることは()かるが、その()特定(とくてい)されていない。

「いろは(うた)」を(しる)した現存最古(げんそんさいこ)文書(ぶんしょ)は、1079(ねん)書写(しょしゃ)された『金光明最勝王経音義(こんこうみょうさいしょうおうぎょうおんぎ)』である。
この文書(ぶんしょ)には五十音図(ごじゅうおんず)(しる)されているが、五十音図(ごじゅうおんず)はそれより百年近(ひゃくねんちか)くも(ふる)い『孔雀経音義(くじゃくきょうおんぎ)』にすでに()せられている。
もっとも、『孔雀経音義(くじゃくきょうおんぎ)』の五十音図(ごじゅうおんず)(ぎょう)順序(じゅんじょ)(いま)(こと)なる(うえ)にア(ぎょう)とナ(ぎょう)()き、母音(ぼいん)順序(じゅんじょ)も「キコカケク」というように(いま)とは(こと)なっており、現行(げんこう)五十音図(ごじゅうおんず)についても『金光明最勝王経音義(こんこうみょうさいしょうおうぎょうおんぎ)』は、最古(さいこ)出典(しゅってん)となっている。

(わたし)は「いろは(うた)」を、「いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ うゐのおくやま けふこえて あさきゆめみし ゑひもせす」という具合(ぐあい)七五調(しちごちょう)(とな)えて(おぼ)えた。
「けふ」を「きょう」とは()まないというように、すべて文字通(もじどお)りに()んだ。濁音(だくおん)一切(いっさい)なかった。丸暗記(まるあんき)であり、その意味(いみ)()ったのは、ずっと(あと)のことである。意味(いみ)(とお)るように()もうと(おも)えば、当時(とうじ)清濁(せいだく)区別(くべつ)無視(むし)されていたので、まず濁点(だくてん)(おぎな)わなければならない。
すべて清音(せいおん)でというようなことは、さしもの「いろは(うた)」の作者(さくしゃ)でも無理(むり)であろう。なにしろ、百人一首(ひゃくにんいっしゅ)でも濁点(だくてん)(ひと)つも(おぎな)わないですむのは、蝉丸(せみまる)の「これやこのゆくもかへるもわかれてはしるもしらぬもあふさかのせき」の一首(いっしゅ)しかないのである。
以下(いか)七五(しちご)ずつに()けて、この(うた)意味(いみ)解釈(かいしゃく)してみる。

(いろ)はにほへど(におえど)()りぬるを」−「()」とあるので「(いろ)」が(はな)(いろ)であることが()かる。
「にほふ」は(なに)かが視覚的(しかくてき)()えることを(しめ)し、現代語(げんだいご)のような嗅覚的(きゅうかくてき)意味(いみ)ではない。
嗅覚的(きゅうかくてき)意味(いみ)場合(ばあい)は、古語(こご)では百人一首(ひゃくにんいっしゅ)の「ひとはいさ(こころ)()らず故郷(ふるさと)(はな)(むかし)(かおり)ににほひける」の(うた)にあるように、「(かおり)ににほふ」という。
(いろ)はにほへど()りぬるを」は、「(はな)(いろ)(あざ)やかに()えるけれども、(いずれは)()ってしまうものなのに」という意味(いみ)である。

()()たれぞ(つね)ならむ(ならん)」−「(わたし)()きているこの()(だれ)一定不変(いっていふへん)であろうか、いや(だれ)一定不変(いっていふへん)ではない」という意味(いみ)である。
(だれ)」は現代語(げんだいご)では「だれ」と(にご)るが、古語(こご)では(にご)らない。ヘミングウェイの小説(しょうせつ)訳題(やくだい)である「()がために(かね)()る」や「たそがれ」を(おも)()していただきたい。
「たそがれ」は「(たれ)(かれ)れ」であり、夕暮(ゆうぐ)(どき)(やみ)(ひと)(かお)識別(しきべつ)(むずか)しいことからできたことばである。
「ぞ」は「それ」の「そ」と(おな)語源(ごげん)(ふる)くは清音(せいおん)だったが、平安時代(へいあんじだい)からは濁音(だくおん)となった。

有為(うゐ)奥山今日越(おくやまけふこ)えて」−仏教的(ぶっきょうてき)世界観(せかいかん)では万物(ばんぶつ)(なん)らかの原因(げんいん)があってこの()存在(そんざい)している。「有為(うえ)」とは原因(げんいん)があることを(しめ)()だが、ここでは、原因(げんいん)があって存在(そんざい)している万物(ばんぶつ)意味(いみ)している。
万物(ばんぶつ)()たされたこの()一日生(いちにちい)きることを(やま)()えることにたとえて、このように表現(ひょうげん)している。

(あさ)夢見(ゆめみ)()ひ(えい)もせず」−「はかない(ゆめ)など()るまいよ、()っているわけでもないのに」という意味(いみ)である。
()ふ」はもともと「ゑふ」といった。それが現代語(げんだいご)で「えう」にならず「よう」になった経緯(けいい)については、「塔婆守(とうばしゅ)のホームページ」の(なか)の「やまとことばレッスン」の(だい)48(かい)御覧(ごらん)いただきたい。
()えば」を「ええば」では()いにくいであろう。

「いろは(うた)」に()られる無常感(むじょうかん)は、平安時代後期(へいあんじだいこうき)(ひと)(つよ)くとらえていた。
しかし、当時(とうじ)(ひと)がまったく悲観的(ひかんてき)人生観(じんせいかん)()っていたと()るのは早計(そうけい)であろう。
無常感(むじょうかん)人々(ひとびと)(かんが)(かた)(かげ)()えたのである。(かげ)があることによって、(ひかり)部分(ぶぶん)(ぎゃく)(かがや)きをました(めん)見逃(みのが)してはならない。
それにしても、当時(とうじ)(とみ)権力(けんりょく)手中(しゅちゅう)にした(ひと)があっけなくそれを手放(てばな)して出家(しゅっけ)する(はなし)(おお)いことに現代人(げんだいじん)(おどろ)くが、よほど(うん)(わる)くない(かぎ)一定(いってい)年齢(ねんれい)まで()きることが保障(ほしょう)されている現代(げんだい)(こと)なり、年齢(ねんれい)関係(かんけい)なく(つね)()(とな)()わせに()きていた当時(とうじ)人々(ひとびと)が、来世(らいせ)存在(そんざい)(しん)から(しん)じていたとすれば、これはさほど不思議(ふしぎ)なことではない。
無常感(むじょうかん)は、その(あと)武士(ぶし)台頭(たいとう)社会(しゃかい)混乱(こんらん)するとますます人々(ひとびと)(こころ)(ふか)くとらえることになる。

「いろは(うた)」の作者(さくしゃ)(いま)不明(ふめい)であるが、その非凡(ひぼん)さから弘法大師空海(こうぼうだいしくうかい)(774−835)の(さく)だとする俗説(ぞくせつ)が12世紀以来(せいきいらい)ある。
しかし、その死後(しご)200年以上(ねんいじょう)(なん)記録(きろく)にもとどめられていないというのは不自然(ふしぜん)である。それに、かなを1(かい)ずつ使(つか)って(うた)のようなものを(つく)(こころ)み(字母歌(じぼうた))は、「いろは(うた)以前(いぜん)にも「あめつち」とか「たゐにの(うた)」というのがあるのだが、いずれも「いろは(うた)」ほどの完成度(かんせいど)はない。
空海(くうかい)(つく)った「いろは(うた)」がすでにあるのなら、このような稚拙(ちせつ)なものを(あら)たに(もち)いる必要(ひつよう)はないのである。
そして、空海作者説(くうかいさくしゃせつ)音韻(おんいん)(めん)から完全(かんぜん)否定(ひてい)される。空海(くうかい)時代(じだい)には、「え」という(おと)は「エ」と「イェ」に()かれていたのであり、(さき)()べた「あめつち」もそれを裏付(うらづ)けている。
()えて」は「()え」であって、「()へ」でも「()ゑ」でもない。「()ゆ」というヤ行下二段動詞(ぎょうしもにだんどうし)連用形(れんようけい)であり、(ふる)くは「コイェ」と発音(はつおん)されていた。このほかにも、「いろは(うた)」は、さまざまな俗説(ぞくせつ)(たね)とされている。

日本語(にほんご)変遷(へんせん)により「いろは(うた)」の意味(いみ)がよく()からなくなると、「いろはにほへと/ちりぬるをわか/よたれそつねな/らむうゐのおく/やまけふこえて/あさきゆめみし/ゑひもせす」のように、機械的(きかいてき)に7()ずつに区切(くぎ)って()()(かた)(ひろ)まった。
そして、このような区切(くぎ)りの最後(さいご)(つら)ねると「とが(罪科(とが))なくて()す」という暗号(あんごう)()かびあがるとされた。
赤穂浪士(あこうろうし)(はなし)をもとにした「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」の「仮名手本(かなでほん)」とは、このような()(かた)(したが)い、浪士(ろうし)が47(にん)だったこととかなが47()であることに因縁(いんねん)見出(みいだ)してつけられたのである。
また、いろは(うた)は、(つみ)もなく()んだ奈良時代(ならじだい)歌人(かじん)柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)無念(むねん)(つた)える暗号(あんごう)だなどと()われるが、奈良時代(ならじだい)日本語(にほんご)母音(ぼいん)には甲乙(こうおつ)区別(くべつ)があり、音節(おんせつ)種類(しゅるい)(はる)かに(おお)かったのだから、到底成(とうていな)()たない(せつ)である。
さらに、「いろは(うた)」は6世紀(せいき)ごろ、景教(けいきょう)(ネストリウス()のキリスト(きょう))の(おし)えを()いたものだなどという(せつ)まであるが、同様(どうよう)理由(りゆう)()()たない。
この(せつ)五十音図(ごじゅうおんず)まで()()いに()し、四隅(よすみ)(うち)(みっ)つで「いゑす」つまり「イエス」が()かび()がるなどと()っているが、「いゑす」では「イウェス」になってしまう。

出典(しゅってん)「いろは」(うた)はどんなことを(うた)っているか?作者(さくしゃ)信太一郎(しだいちろう) ()の「日本語(にほんご)(となり)(くに)から世界(せかい)()」より)関連ページ:The Hiragana Table Game

<< Notes >>  かつて−once
 なじむ−fit in
 (とな)える−patter
 造作(ぞうさ)ない−be simply done
 昨今(さっこん)nowadays
 今様(いまよう)a style of ancient poem
 ほのか−delicate // slight
 無常感(むじょうかん)sense of mortality
 (いろど)る−highlight
 制約(せいやく)constraint // lock-in // restriction
 非凡(ひぼん)prodigy
 特定(とくてい)specific
 ()せる−list // superimpose
 清音(せいおん)resonant sound
 濁音(だくおん)dull sound // voiced consonant
 (おぎな)う−fill in gaps // set off
 もっとも−not but that
 万物(ばんぶつ)all creation // all nature // all things // heaven and earth // whole creation
 悲観的(ひかんてき)pessimistic ⇔ 楽観的(らっかんてき)
 ()える−append // attach
 字母歌(じぼうた)pangram [eg.Pack my box with five dozen liquor jugs.]
 (あざ)やか−brilliant // fluorescent // lively // neon-colored // slashing // vivid
 ()える−look really sharp with // contrast favorably with
 ()る−burn off
 精一杯(せいいっぱい)as best one can [may] // as far as in one lies // as hard as possible
 はかない−ephemeral
 字足(じた)らず−insufficient letter
 丸暗記(まるあんき)memorize
 七五調(しちごちょう)in seven-and-five syllable meter
 百人一首(ひゃくにんいっしゅ)the card game of the one hundred famous poems
 奈良時代(ならじだい)Nara Period; 710-784
 平安時代(へいあんじだい)Heian Period; 794-1185
 変遷(へんせん)transition // vicissitude
 武士(ぶし)samurai // warrior
 暗号(あんごう)cipher // code // code language // secret code
 いの一番(いちばん)first thing
 ゐ−=ウィ[ヰ]=WI≒い(現代語(げんだいご))←わ[ゐ]うゑを⇔あ[い]うえお
 ゑ−=ウェ[ヱ]=WE≒え(現代語(げんだいご))←わゐう[ゑ]を⇔あいう[え]お
 さかんに−frequently // very often
 歌謡(かよう)ballad
 台頭(たいとう)rise
 さしもの−[≒さすがの] // - as one is // - though one is
 イエス−Jesus Christ
<< Homework >> (つぎ)質問(しつもん)(こた)えなさい。
  1. 「いろは(うた)」が(つく)られたのはいつ(ころ)だと(かんが)えられていますか。
  2. 「いろは(うた)」が(つく)られた目的(もくてき)(なん)だと(おも)いますか。
  3. 「いろは(うた)」と「五十音図(ごじゅうおんず)」はどちらが(ふる)いですか。
  4. 「いろは(うた)」はどうして(おぼ)えやすいのですか。
  5. 上記(じょうき)の「いろは(うた)」の表記(ひょうき)現代日本語(げんだいにほんご)使(つか)われていない文字(もじ)はどれですか。
  6. 七五調(しちごちょう)表記(ひょうき)される()日本語(にほんご)()にはどんなものがありますか。